本部長メッセージ
お客さま、協力会社、従業員と共に
ゆたかな明日を創り、支える
西日本鉄道株式会社
常務執行役員 国際物流事業本部長
宇髙 圭一
「コロナ禍」で再認識されたインフラとしての国際物流の重要性
この度、西日本鉄道 国際物流事業本部(NNR GLOBAL LOGISTICS)として初めて、サステナビリティレポート「NNR グローバル・ロジスティクス サステナビリティレポート」を発行いたします。このような形で事業活動のご報告ができるのは、お客さまはもとより、全てのステークホルダーの皆さまのご理解とお力添えの賜物です。厚く御礼を申し上げます。
この数年間、新型コロナウイルス感染症の流行により、世界中であらゆる経済活動が甚大なダメージを受けました。人の移動が大きく制約される中で、企業活動のみならず、人々が生活を営む上で必要な物資を運ぶ物流事業の重要性が、改めてクローズアップされた感があります。当事業本部においても、従来のサプライチェーンが寸断されたり輸送手段が限られたりするなど、かつて経験したことがない状況の下で、「運ぶ」「届ける」という社会的使命を果たすべく、従業員一人ひとりが「エッセンシャルワーカー」としての矜持を持ってそれぞれの持ち場を守ってきました。“ヒトの流れは止まっても、モノの流れは止まらない”――誰よりも私たち自身が、そのことを改めて深く認識し、国際物流インフラの一角を担う一員としての使命と責任を実感しています。
お客さまのご要望や社会の要請に今後も応え続けていくためには、ESGや持続可能な社会の実現に向けた取り組みが不可欠であり、事業活動と表裏一体をなすものとして引き続き推進してまいります。本レポートは、私たちの取り組みを記したマイルストーンです。ステークホルダーの皆さまには、どうか忌憚のないご意見をお寄せいただけますと幸甚です。
2022年度は営業収益、営業利益ともに過去最高を達成
NNR GLOBAL LOGISTICSは、太平洋戦争終了から間もない1948年に、当時のGHQ(連合国軍総司令部)より認可を受け、米国・パンアメリカン航空の航空代理店として事業を開始しました。以来、日本国内の経済発展や工業化の進展、また世界的な航空輸送ネットワークの拡大や航空機材の大型化と歩調を合わせるように、航空・海運・ロジスティクスの各分野で事業を拡大してきました。今日では九州北部に地盤を持つ鉄道事業やバス事業と共に、西鉄グループのコア事業の1つとなっています。取扱貨物量の増加や収益力の強化などにより、2022年度(2022年4月1日~2023年3月31日)は営業収益、営業利益ともに過去最高の業績を達成しました。
2023年度より、当社では新たに第16次中期経営計画がスタートしました。当事業本部においても、西鉄グループ内の一事業部門として、とりわけ海外市場においては不動産やホテルなど他の事業部門と相互に機能を補完し合いながら、今後さらなる成長に向けて歩みを進めます。
国内では、今後拡大が見込まれる九州発着の貨物需要を取り込むべく、2022年9月に新たなロジスティクスセンターを福岡に開設しました。さまざまな輸送ニーズにお応えし、また新たな輸送需要を開拓することで、九州の地域経済活性化に貢献していきます。首都圏においては、千葉県習志野市で新たなロジスティクスセンターの2024年度上期中の開業を予定しています。
今後新設・増強する施設では、自動搬送システムやロボットによるピックアップシステムを導入するなど、将来予想されている労働力不足にも対応できるような運営方法を模索しています。
優先的に取り組むべきテーマを6つの重要課題として特定
今日の事業活動は、さまざまな社会課題と切り離して考えることはできません。当事業本部では本年、さまざまな社会課題の中でも特に優先的に取り組むべきテーマを、西鉄グループの「サステナブル経営における重要課題」との整合性も確認しながら、6つの重要課題(マテリアリティ)として特定しました。居心地よい幸福感あふれる社会の実現を常に意識しながら、それぞれのテーマに当事者意識を持って向き合い、取り組みを推進してまいります。
サプライチェーン全体での脱炭素社会への貢献
地球規模での気候変動が顕在化しつつあり、温暖化の抑制に向けてCO2排出量の削減が求められています。日本全体が「2050年カーボンニュートラル」を目指す中で、脱炭素社会の実現に向けた取り組みは喫緊かつ最重要課題の1つです。
自ら生産設備や輸送用の車両を持たない当事業本部においては、特にScope3のCO2排出量を重視し、数値目標を設定して削減に取り組んでいます。サプライチェーン全体でのCO2排出量を削減するために、インランドコンテナデポを利用することで空コンテナの回送を減らして輸送効率を高める「コンテナラウンドユース」推進や、各航空会社が実施する「SAF※プログラム」への参加など、協力会社様と共に、CO2排出量の削減を事業拡大と表裏一体の取り組みとして進めています。
※SAF(Sustainable Aviation Fuel):植物や廃油などから作られた持続可能な航空燃料。既存のジェット燃料と比べ、CO2排出量を80%程度まで削減可能です。
多様な人財が働きがいを持って活躍できる職場づくり
人財活用の中でも、とりわけ女性従業員が存分に活躍できる環境の整備は、喫緊の課題です。昨今では女性のキャリアアップを阻む「ガラスの天井」という喩えを耳にしますが、私はそれに加えて、企業内で異なる職種や職場への異動を阻む「ガラスの壁」の存在も感じています。たとえば「この職種は残業や休日出社も多いから、育児と両立させるのは無理」といった“暗黙のルール”はないでしょうか。そうした周囲の思い込みや一種の忖度が、新たな挑戦をしたいと願っている女性従業員の意欲を削いでいることも考えられます。それは本人にとっても、また組織にとっても大きな損失です。意欲を持った女性従業員のチャレンジ精神を後押しできる企業風土を醸成し、存分に活躍できる環境の実現を目指します。
この重要課題に取り組む上では、女性だけでなく、従業員一人ひとりに対して、その人に合った挑戦の機会を提供していくことが大切です。社内でのキャリアアップをとってみても、一様ではありません。スピーディーにキャリアを重ねたい人もいれば、自分のペースでじっくりと歩みたいという人もいるでしょう。画一的ではなく、多様なニーズに応えられるような人事制度や研修体制を整備していきます。
あらゆる人権の尊重
特に日本国内においては、トラック運転手の時間外労働規制強化に伴って輸送力不足が懸念される物流の「2024年問題」への対応が課題となっています。当事業本部にとっても、対岸の火事として傍観できる問題ではありません。当事者意識を持って協力会社様に寄り添い、共に効率の良い輸送方法などを構築する必要があります。またお客さまに対しても、我々物流業界が抱える問題にご理解をいただきつつ、代替の手段をご提案するなどして共に最適解を探る努力が欠かせません。
高品質で安全なサービスの提供
物流の使命は、お客さまからお預りした貨物を、安全・確実に目的地へお届けすることに他なりません。一方で、輸送のグローバル化に伴って、地政学リスクなどスムーズな輸送を阻む要因も増えています。DXの活用などにより、それぞれのお客さまのご要望に応じた最適な輸送方法を、今後も引き続き追求してまいります。
DXによる物流サービスの革新
従来は“人”が担っていた役割をAIなどに代替させて業務効率化を図ることにより、そのマンパワーを別の成長分野にシフトしたり、既存のお客さまの満足度向上へ振り向けたりすることが可能になります。効率化のみならず、その先にある諸問題の解決にも有効であることから、DX推進は当事業本部にとって最重要課題の1つだと捉えています。
全てのステークホルダーの皆さまに真摯に寄り添い、共に歩む
私は、企業経営においては「フェアであること」が重要だと考えています。公正に物事を判断して決定すれば、ステークホルダーの皆さまに納得していただくことができ、皆で同じ方向を見ながら進んでいけます。
「自分たちの企業だけが繁栄できれば良い」という時代は終わりました。これから訪れる大変革の時代を生き抜くためには、共に手を携え、歩調を合わせなくてはなりません。私たちの国際物流事業においては、航空会社、海運船会社、トラック会社など、各協力会社様との協調が不可欠です。
もちろん、お客さまにもご満足いただく必要があります。さらには、働く従業員の満足度も大切です。これらの「満足」は、それぞれ別個に存在しているものではなく、相互に作用しながらサイクルを形成していると言えるでしょう。事業活動を通じて、このサイクルを良い方向に回していかなければならないと考えています。
NNR GLOBAL LOGISTICSは、「日本最大級」の国際物流事業者ではありません。しかし、高いサービス品質を常に保ちながら、それぞれのお客さまのニーズにぴったりと「寄り添える力」では、世界中のどの物流事業者よりも優れていると自負しています。当社は2022年に公表した「にしてつグループまち夢ビジョン2035」において、「濃(こま)やかに、共に、創り支える」というコンセプトを掲げました。この「濃やかさ」こそが、当事業本部においても他の物流事業者に勝る強みだと認識しています。一歩踏み込んで、ときにはお客さまや協力会社様に「このようなサービスもご提供できます」「こうしてみてはいかがですか」とご提案することもあるでしょう。いただいたニーズの一つひとつを確かに見据え、濃やかに対応しながら、お客さまや協力会社様の事業を今後も共に創り、支えてまいります。
物流は地域経済の発展に貢献し人々の生活を豊かに彩る
国際物流は、大きな裾野を持つ事業分野の1つです。新たな国や地域に進出する場合を例にとると、まず施設を保有しなければなりません。施設内で使用する車両や設備、什器なども必要です。また、多くの雇用が生まれます。働く人たちを対象としたビジネスも生まれるでしょう。施設が稼働し始めれば、その地域で生み出された多くの製品を出荷できるようになったり、逆に世界各地の製品がその地域で消費されるようになるでしょう。コールドチェーン※が整備されることで新たな産業が育ったり、地域の家庭の食卓が豊かになったりするかもしれません。
私たちNNR GLOBAL LOGISTICSは現在、海外29ヵ国・地域、123拠点に事業拠点を置いています。それは、単に事務所を構え、従業員を配置しているというだけではありません。それぞれの国・地域に深く根付いたビジネスを展開することで、その土地や暮らす人々に濃やかに寄り添い、地域経済を共に創り、発展を支えています。
NNR GLOBAL LOGISTICSは大きなポテンシャルを秘めた国際物流事業を通して、世界中の社会課題解決に取り組んでいきたいと願っています。そのためには、お客さまやステークホルダーの皆さまのご理解が不可欠です。安心・安全かつ豊かに、希望を抱いていきいきと暮らせる社会を次の世代に遺すことは、現代を生きる私たちに課せられた責務です。ぜひNNR GLOBAL LOGISTICSの想いにご賛同いただき、共に明日の社会を創り、支えていただけると幸いです。
※温度管理が必要な製品に関する原料の調達・生産・流通・販売までの一貫したサプライチェーンプロセス