第8回特別コンテンツ「天神大牟田線高架化の歴史」

50周年を記念して、開業当時に話題となったライトアップを再現しました。　2019（平成31）年春　所蔵：西日本鉄道（株）

大名町の旧西鉄本社
1965（昭和40）年頃　写真No. NKR726
所蔵：西日本鉄道（株）

　1966（昭和41）年、西日本鉄道株式会社（以下、西鉄）は、当時飛躍的に増加していた国内外からの来訪者を鑑みて、西鉄観光開発事業としてホテル事業への進出を計画しました。当時の福岡市は政令指定都市をめざす中で「アジアの玄関口」として福岡空港や博多港の整備が進み、オフィスビルや商業施設の誕生が相次いでいた天神地区での本格的なホテル建設の要望が高まる中での決断でした。
　政治・経済・文化の交流の場であることはもちろん、地域産業の刺激と発展にも寄与することを念頭に、地元政財界からの出資という後押しも得て大名町（当時）旧西鉄本社跡地での建設計画が始動。1967（昭和42）年5月に株式会社西鉄グランドホテルを設立しました。


大名町の本社前を通過する西鉄ライオンズ優勝パレード 1956（昭和31）年11月　写真No. NLL133／所蔵：西日本鉄道（株）		大名町の旧西鉄本社前を通過する西鉄ライオンズ優勝パレード 1963（昭和38）年10月　写真No. NLS490／所蔵：西日本鉄道（株）

外観が姿を現した西鉄グランドホテル
1968（昭和43）年頃　写真No. HRNS069
所蔵：西日本鉄道（株）

西鉄グランドホテルの建設地の設定は、帝国ホテル社長（当時）犬丸徹三氏。設計は1965（昭和40）年に倉敷観光ホテルで日本建築学会賞を受賞した浦辺鎮太郎氏率いる株式会社浦辺建築事務所（現・株式会社浦辺設計）。施工は1965（昭和40）年に日本初の超高層ビル・霞が関ビルを手がけた近代建築のパイオニアである鹿島建設株式会社にそれぞれ依頼しました。
　西鉄グランドホテル建設工事の着工は1967（昭和42）年11月、着工前に約10ヶ月間の準備期間を設け、効率良くかつ安全性の高い工事が実現するよう設計と施工を担う両社による協議が重ねられました。建物の外壁に用いたプレキャストコンクリートは建物を覆う足場を組む必要がないため、工事は安全かつ短期間で進み、道行く人々も建築の様子を楽しむことができたといいます。鹿島建設は複雑な工事工程を正しく管理するために、鉄道ダイヤのような工程図表を考案。全工程を通して数日の狂いもなく、難易度の高い工事は無事に完遂しました。


ホテル建設風景（基礎工事）左奥は現在の天神西通り 1968（昭和43）年頃　写真No. NZS087 ／所蔵：西日本鉄道（株）		ホテル建設風景（基礎工事） 1968（昭和43）年頃　写真No. NZS083 ／所蔵：西日本鉄道（株）


ホテル建設工事 1968（昭和43）年頃　写真No. HRNS027 ／所蔵：西日本鉄道（株）		西鉄グランドホテル開業前の防火訓練 1969（昭和44）年4 月　写真No. HRNS113 ／所蔵：西日本鉄道（株）

西鉄グランドホテル開業当時の全景
1969（昭和44）年　写真No. NKG104　
所蔵：西日本鉄道（株）

　1969（昭和44）年4月21日、青空のもとで華やかに開業した西鉄グランドホテル。道行く人の目を一瞬で奪う外装は、西ドイツで生まれた白いボンタイルの吹き付けを施したもの。表面の凸凹が光源や天候によって豊かな表情の変化を生み出し、天神の街全体の印象を刷新しました。気品高いメインロビーや長さ70mにも及ぶ人工滝を備えた中庭は「福岡の応接間」と呼ぶに相応しい風格を持ち、国内外からのゲストを魅了し、世界の名ホテルを参考に設えた客室は機能性にまで細やかな配慮が行き届いていました。
　2階に配した「鳳凰の間」をはじめとする大小の宴会場には、九州や日本を代表する伝統工芸品や装飾品を積極的に使用。アジアの玄関口としての福岡をアピールすると同時に、福岡を舞台とした国際的な会議や大規模な祝賀会、結婚披露宴のあり方を変えたと言ってもいいものでした。
　最上階の14階には玄界灘まで一望できるレストラン「スカイシャトー」や「スカイバー」が設けられ、当時は希少だった本格西洋料理を提供するレストランとして憧れの的になりました。1階のメインダイニング「カスケード」やメインバー「グロット」、テラスラウンジ、コーヒーコーナー、そして地階の和食「松風」や中華料理「桃林」などの存在は、福岡の外食文化を劇的に変えるものでした。


完成当時の西鉄グランドホテル夜景 1969（昭和44）年　写真No. NKG108 ／所蔵：西日本鉄道（株）		西鉄グランドホテル開業当時の館内風景（スカイシャトー） 1969（昭和44）年　写真No. NKG016 ／所蔵：西日本鉄道（株）


西鉄グランドホテル開業当時の館内風景（鳳凰の間） 1969（昭和44）年　写真No. NKG016 ／所蔵：西日本鉄道（株）		西鉄グランドホテル開業当時の館内風景（客室） 1969（昭和44）年　写真No. NKG017 ／所蔵：西日本鉄道（株）

にしてつニュース「西鉄グランドホテル開業特集」1969（昭和44）年5月号／所蔵：西日本鉄道（株）

　1974（昭和49）年7月、都市型ホテルでは九州初登場となるファッションプール「ハロースイム」が2階屋上にオープン。グリーンの芝生とロケーション、豪華な設備の「水辺の社交場」はたちまち大人気となりました。同時に1階東側（天神西通り沿い）と地下1階にはショッピングアーケードが完成しました。

西鉄ニュース「ファッションプール7月オープン」記事
1974（昭和49）年5月号／所蔵：西日本鉄道（株）

左：完成した屋上ファッションプール「ハロースイム」
1974（昭和49）年頃／所蔵：西日本鉄道（株）

　2015（平成27）年、福岡市は「天神ビッグバン構想」をスタートしました。天神交差点を中心とする半径500m範囲を対象とし、10年間で30棟のビルの建て替えを推進しようという計画です。その中心となっているのは、2008（平成20）年に設立された地権者組織「天神明治通り街づくり協議会（MDC）」が対象エリアとしている天神明治通り地区の機能更新です。同地区の約100棟ある建物のうち、築年数が40年以上経過している半数近くの建物が順次更新され、容積率・高さ制限の緩和を受けながら再開発が進んでいく天神は、大規模な都市の変革期を迎えています。
　そんな中、MDCでは「アジアで最も創造的なビジネス街」を街の将来像として掲げ、グランドデザインを策定しました。歩いて楽しい沿道景観の創出、安全で快適な歩行者空間の整備、集客・交流・創造機能の充実、ICT等の最新技術を活用したスマートエリア化など、官民共働で街づくりが進められています。国内外から様々な人や企業が集まる現在、天神地区はアジアの拠点として新しい都市の価値を創造し、世界へと発信していく役割を担っているといえます。
　福岡市初のシティホテルとして1969（昭和44）年に誕生した西鉄グランドホテルは、新たな役割と存在価値の中で未来へ向けたあゆみを続けていきます。

西鉄グランドホテルと福岡大名ガーデンシティ
2023（令和59）年5月

　20世紀から21世紀へ。変わりゆく都市の中で、ホテルの在り方も多様化してきました。福岡にも次々と外資系ホテルが進出し、日本のホテルもこれまで以上に上質なサービスを提供し、福岡を訪れる方へ向けて様々なニーズに合わせたフレキシブルな宿泊プランの提案が求められる時代となっています。
　伝統ある西鉄グランドホテルには、こうした新たなニーズに対応し得る十分な素地が備わっています。最も魅力的なのは、クラシカルな外観と、建物に入った瞬間にホッとできるような居心地の良さでしょう。格式あるホテルでありながら、リラックスできる。長年培ってきたこの魅力は、福岡を訪れる方だけでなく、ぜひ地元福岡の方にも改めてご体感いただきたいことです。ホテルでの滞在を通して、日常生活とは違った角度から人や文化が交流し賑わう天神の魅力に触れていただけたら幸いです。
　2018年に経営統合した「西鉄ホテルズ」のホテルブランドは、福岡のみならず北海道から沖縄までの全国各都市、さらには韓国、タイ、台湾などアジア各都市においても事業を展開していますが、アジアにおいてジャパンクォリティのサービスを提供できるホテルはまだまだ希少です。
　創業から50余年を迎えた西鉄グランドホテルは、西鉄グループ全体の発展や魅力向上においても大きな役割を果たしてきました。グループにおいても今や大きなセグメントへと成長したホテル事業が、天神のみならず世界各都市に根を張り、ますます成長発展していきます。その中心に西鉄グランドホテルは在り続けます。

2019年4月に開業50周年を迎えた西鉄グランドホテル初の記念誌です。建設当時の貴重な設計資料やアーカイブ写真とともに50年間の歴史を振り返っています。また、グランドホテルにゆかりのある方々からの当ホテルにまつわる話もふんだんに掲載し、西鉄グランドホテルが地元の方々にとってどういう存在であったか、また都市の文化にどのような影響を与えてきたのかを詳しく紹介しています。
購入をご希望のお客さまには、西鉄グランドホテルフロントにて1 部1,200円(税別)で販売中です。
（在庫が無くなり次第販売終了）

本ページでは、記念誌から一部を抜粋して掲載紹介しました。

もっと見たい方は　特集「大名2丁目６番地の変遷」　　/　西鉄グランドホテルの工事・竣工　/　画像ライブラリー　/　にしてつニュース・アーカイブス

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